イヤホンやヘッドホンの鳴らしきる、鳴らしきれていないとは何か考えてみる【直挿しはダメ?】

♨の人

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今回は、ネット上にて語られている、イヤホンやヘッドホンを「鳴らしきる」ということについて考えてみたいと思います。




高出力な機器で鳴らしきれないことは原理的にありえない


このDAPだとこのイヤホンは鳴らしきれない、鳴らしきれないのでアンプを繋ぐ、みたいな感じで、ネット上では「鳴らしきる」という表現がよく使われます。

これに関してですが、確かにDAPだと鳴らしきれないということはあります。

例えばAK380なんかは音質は非常に優れているものの出力自体はそこまで高くもないので、多ドラ&低インピーダンスのIEMなんかだと電流が不足してノイズが混じると言った事が報告されています。
(それを解決するためかどうかは知りませんが、別売りのアンプモジュールがあります)

しかし、逆に言えば十分に出力が高く、低いインピーダンスでも電圧が下がらず電流が不足したりクリッピングしない良質な機器なら、たとえどんなDAPやアンプだろうと一般的なイヤホン、ヘッドホンならほぼ全てを「鳴らしきる」ことができます。

逆にそうでないのなら、どんな高いDAPだろうと、インピーダンスの落ち込みの激しいマルチIEMやハイインピーダンスのヘッドホンは鳴らし切ることは出来ません。
(上のAK380がそうであるように)

例えばChord Mojo、ifi micro idsd signatureなんかの高出力なポタアンであれば、ダイナミックレンジの広すぎるマスタリングのクラシック音源なんかを除けば大抵のイヤホン・ヘッドホンを駆動することができます。つまり「鳴らしきる」ことが出来るということです。
(電気的な観点から見て)


また20万円~40万円もするような高級なDAP、例えばSP1000、2000とかと比較して、micro idsd signatureやMojoは10万円以下と一見「鳴らし切る」ことが出来なさそうに見えますが、これらのDAPよりもMojoやmicro idsd signatureの方が出力は断然上ですから、電気的な話ならAK DAPで鳴らせたのにこれらのポタアンで鳴らしきれない、なんてことは有り得ません。

しかし、インターネット上のオーディオ界隈では自分の好みの音になったか、そうでないかで「鳴らし切れた」「鳴らしきれない」と言っている人が多いようです。

しかし、これは間違いというか、あまり適切ではない使い方なので注意しましょう。
(例えばMojoにアナログアンプを接続したりすると音が変わります。しかしそれはMojoの駆動力が足りず鳴らしきれていなかったのではなく音が変化しただけであって、あとはそれが好みの音かどうかというだけの話ですから、ここで「鳴らしきれた」という表現を使うのは間違いです)

本当に鳴らしきれている状態というのは、そのメーカーがチューニングの際に使用していたヘッドホンアンプを特定してそれを接続した状態です。なぜならばそれがメーカーの意図した音だからです。

リケーブルにせよアンプ変更にせよそこから外れた時点でメーカーの作った音からは外れているので、本来の意味合いで言えばもはや鳴らしきるもクソも無く、明らかにクリッピングしていたりしない限りは結局好みかどうかの話になります。

インピーダンスケーブルを繋いで音を劇的に変化させても、その音が好みならそれは鳴らしきれていると言う人もいるでしょうね。
イヤホンにアッテネータを使ったときの音質変化について




なぜDAPやポタアンは高音質なのか考える


鳴らしきる、鳴らしきらないの話はとりあえず置いておいて、スマートフォンとDAPの音質の差についてはもはや語るまでもないでしょう。

例えばDAPはスマートフォンと違い、専用のオーディオ用DACチップやオペアンプなどを搭載しており、またノイズ対策や電源の作り込みなんかがスマホと比較して非常にしっかりとしています。
(10万円のスマホでも音質は2~3万の小型DAPに負けます)

また出力も当然DAPの方が高いです。例えばスマホなんかの電圧ゲインは低いところから高いところの差が小さく、またすぐ頭打ちになりだいたい最大で1Vp-p程度しか出ません。

これがAK DAPとかなら6Vp-pくらい出ますし、ポタアンだったらMojoとかmicro idsd BLなんかは10~14Vp-pも出せます。
(micro idsd BLはNormalモード)

もちろんこれは最大値の話なので、例え最大電圧が10Vp-pだろうが普通は音量を下げるため、イヤホンだと基本的に1Vp-pくらいで使います。

しかしだからといって同じという訳ではなく、アンプにはそれぞれ電圧の上限、電流の上限が存在します。

電圧上限や電流不足に陥ると音量が上がらなくなったり、音割れの発生や音の歪みによる音質劣化が発生してしまいます。

つまりアンプの出力が弱いと、そもそも音量が取れなかったり、音量が取れたとしても電流不足で芯のないスカスカな音になってしまうということです。


(AONIC4という1BA1DDのハイブリッドイヤホンを、スマホとアンプで聴き比べてみたというツイート)

そしてここまでの話を総括すると、スマートフォンのアンプは最大が1Vp-pなので、電流が不足して音が薄っぺらくなったり、歪みにより細部が潰れたりして、それにより音質が悪くなってしまっているのでは、というのが私の考えです。
(あまり詳しくないのでなにか指摘されても何も言い返せませんが)

また高級なイヤホンはスマホに接続するとむしろ音が悪くなる、ということが言われていますが、これは高級なイヤホンにBAドライバーを搭載したものが多いのが関係しているのでしょう。

BAドライバーというのはそもそもダイナミック型と比較してインピーダンスの変動がかなり激しく、また高級機にありがちな多ドラ構成になるとものによっては特定帯域だけ100Ωを超えたりとか、逆に5Ω近くまで落ち込んだりとかインピーダンスの起伏がとても激しくなります。

インピーダンスが低くなると膨大な量の電流が必要となるので、音量は取りやすいけど鳴らしにくいなんていう訳の分からないような状態が発生します。

低出力な機器はそのような部分を余裕を持って駆動できないので、特定の帯域がおかしくなって結果として全体のサウンドイメージが崩れるのでしょう。





スマホ直挿しで高級イヤホンの音質は悪くなる?



私が所有する中だと、12BAのLayla Universal fitはスマホだと音が露骨に劣化します。音の細部が曇り、更に地に足が着いていないようなフワフワした籠った変な音になるので、聞き比べれば誰でも分かると思います。

Laylaの凄いところは音楽だけではなく、人間の声すら明らかに籠ったおかしなサウンドになると言うところです。
(例えばアニメとかYouTubeでも)

当然そんな感じですから音楽となるととにかく酷く、音量バランスが変わることはそうですが、明らかにヴォーカル帯域が曇り、音もビビります。
ビットレートを96Kbpsに落としたのかと錯覚するような篭もり方をするので、もしスマホに直差しでこのイヤホンを聞いた場合ぼったくりのような製品に思えるかもしれません。それほどアンプとスマートフォンでは別物のような音になります。
(ちなみにLaylaはESS ES9218Pを搭載したLG G8X ThinQでも全然まともに駆動できません)


8BAのRosieはLaylaほどでは無いですが、こちらも音の細部がぼやける事は共通しています。

具体的に言うと低域、特にベースが暴れることで、高域や中域の音の細部が潰れてしまう、という感じでしょうか。シンバル類やギターのブリッジミュートの音なんかに注目するとわかりやすいと思います。制動の効いていない音、キレが悪い音と表現するのが適切でしょうか。

しかし、明らかに音量バランスが変わってはいるのですが、Laylaみたいにヴォーカルが露骨に曇ったりはしないので、一般的な視点で見ればこのくらいなら気付かないというか、気にしないという人も割と居そうではあります。ただスマホ直差しだと一般的に言われる艶だとか粒立ちだとか、そういう類のものを感じることはできません。


EL:DORADOのギターソロなんかを聞けば私が何を言っているかわかると思います。音の立ち上がりから減衰、空間の広がりやメリハリが明らかに違います。僅かな差ではありますが、その僅かな差はオーディオに関心のある人であれば誰しも妥協したくないと感じるものでしょう。


ダイナミックドライバーのヘッドホン、T5P 2nd Genは、変化の度合いはRosieくらいでしょうか。
(このヘッドホンは32Ωなのでスマホでも音量は取れます)

ベイヤー T5P Gen2を購入したのでイヤホンとヘッドホンの音質を比較レビューしてみた【beyerdynamic T5P 2nd Generation】

音楽が好きで、尚且つイヤホンが好きなら、色んな機種が気になるのは殆ど必然のようなものだと思います。イヤホンなんてひとつあれば十分、というのが普通の人の考えだと思いますが、イヤホンというものに魅せられた人間は常日頃から購買意欲と戦っているのではないでしょうか。かく言う私もそういうタイプで、最初は数万円程度のイヤホンとアンプを購入して終わりにするつもりが、今や10万円単位のお金を普通に使ってしまいました...



低域の締まり、音のキレ、空間の広がりがスマートフォンだと明らかに不足しています。

ギターやドラムが顕著ですが、スマートフォンは音の細かなタッチが消えるので、それが音がダマになって聞こえたりする原因なんだと思います。

ただ、こちらもLaylaほどの違いはなく、スマホ直差しでもまあ普通に聞ける音です。もちろん比較すると明らかに物足りないサウンドですが、それは私が既にアンプを通した音に慣れているからでしょう。スマホしか知らなければ「こんなもんか」で納得できるような音ですし、2~3万程度のヘッドホンと比較すれば明らかに別次元の音です。
少なくともLaylaのように明らかに酷い、数千円のイヤホンにも劣る別物のような音にはなりません。


因みスマホとPCではまた違うみたいで、私が所有する8万くらいのノートPCは音質以前にまずホワイトノイズがスマホよりぜんぜん強いです。

そしてLaylaを直挿ししてみたところ、スマホよりはるかに酷い、正に誇張でもなんでもない百円均一イヤホンの音になりました。全ての音が篭もりまくっており、もはや同じイヤホンから出ている音とは思えません。
さらに言うと何故か定期的に普段聞いた事のないような音が聞こえます。恐らくドライバーの出力がめちゃくちゃになっており、バランスが完全に崩壊しているのでしょうね。

SoC内蔵DACを使用しているスマホの方が、パソコンよりも音質的には優れているようです。
(ノートパソコンは電源に接続しているので、そのノイズを拾っている可能性もあります。純正ACアダプターがそこそこコイル泣きしているので)

因みに使ったスマホはシーラスロジックのDACを搭載したGALAXYですが、音質的にはSnapdragonと大差ないですね。LG G8XなどのSoCとは違う個別DACを搭載した機種でやっと差が出てくるという感じでしょうか。






2021年12月28日 追記
新しいイヤホンを買ったので、そちらもスマホとヘッドホンアンプで比較してみたいと思います。

買ったのはEMPIRE EARS ODINです。


まず、このイヤホンはLaylaと同じく多ドラ、それもEST、BA、DDのトライブリッドということもあって、かなり音の印象が変わります。

端的に言うと、ESTが悪さをするのかスマホ直挿しだとやたらと高音がキンキンシャリシャリとするようになります。高音がよく出るとかそういうアレではなく、非常に歪みっぽくて嫌な高音です。

他にはスマホのパワーではダイナミックドライバーを上手く駆動できないのか、低音域が明らかに弱まります。

ただ能率は悪くないので、スマホでもそれなりに鳴るな、という感想もあります。Laylaなんかはスマホだとほんとになんじゃこれってくらい篭った音になるので、それと比べると聞けるっちゃ聞ける音質でした。





理屈で語るより聞いてみる方が早い


結局のところですが、いくら理屈で考えても実際の音というのは想像できないので、聞いてみるしかありません。

しかし、既に出力が足りており、なおかつ電流不足によるクリッピングなど明らかな問題を起こしていないのであれば、それは既に「鳴らしきれている」状態なので、そこから何かを変えた場合は鳴らしきるとかきらないとかではなく単純に「どちらの音が好みか」という話に帰結します。

なので「これで鳴らしきれるよ」とか、「それじゃ鳴らしきれないよ」という意見は「俺はこっちの音の方が好きだよ」程度のものと考えていいと思います。今の音に不満がないなら何もする必要は無いですし、試せるのなら試してみればいいでしょう。

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先日、beyerdynamicのフラッグシップヘッドホン、T5P 2rd Generationを購入しました。ベイヤー T5P Gen2を購入したのでイヤホンとヘッドホンの音質を比較レビューしてみた【beyerdynamic T5P 2nd Generation】音楽が好きで、尚且つイヤホンが好きなら、色んな機種が気になるのは殆ど必然のようなものだと思います。イヤホンなんてひとつあれば十分、というのが普通の人の考えだと思いますが、イヤホンというものに魅せられた人間は...




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